かぜとインフルエンザ

金沢市医師会 すこやか 第79号(1998年12月1日)

かぜとインフルエンザ

    「かぜ」とは、熱、咳、鼻水、のどが痛いといった症状が主にある感染症を総称していいます。
    たかが「かぜ」、されど「かぜ」です。「かぜ」は万病のもとといわれています。

    「かぜ」の90%以上はウイルスの感染症で、インフルエンザウイルスなど約230種類のウイルスが原因となります。残りの10%が細菌やマイコプラズマなどの感染症です。「かぜ」のほとんどはウイルスによってひきおこされます。

かぜをひかないためには

    1.予防接種

       「かぜ」の予防として一番効果があるのは230種類以上あるウイルスに対してそれぞれの予防接種をすることです。しかし、現在予防接種として実用化されているのは冬に流行するインフルエンザウイルスのワクチンだけです。インフルエンザワクチンは近年その効果について疑問視されたこともあります。しかし、この数年は4月から6月に検出されたインフルエンザウイルスや世界のインフルエンザウイルス情報をもとにその年のワクチンが作られています。
       現在のインフルエンザワクチンは接種すればインフルエンザの症状を軽くすることができますので高齢者や乳幼児など重症化しやすい人にとっては必要なものと言えるでしょう。
       なお、インフルエンザワクチンは他の「かぜ」のウイルスには効果がありません。

    2.人ごみは避ける

       「かぜ」は咳やくしゃみによってウイルスが空気中を飛び回ってうつります。これを完全に防御することは無理です。人ごみの中やたくさんの人の集まる所は「かぜ」の温床です。人ごみは避け、急性期の「かぜ」の人との接触を避けることが大切です。

    3.体を鍛える

       外の寒さに慣れ皮膚や粘膜を鍛錬して抵抗力を養っておけばウイルスや細菌の侵入を予防することができます。昔から「子供は風の子、大人は火の子」というたとえがあるように子供は寒さに強いので薄着の習慣を身につけさせ外で遊ばせて下さい。

「かぜ」にかかったら

    「かぜ」をひいたらこじらせないようにすることが何よりも大切です。前に述べたように「かぜ」のほとんどがウイルスにより引きおこされますが、今の医学ではウイルスによくきく薬がないからです。とくに抵抗力の弱い高齢者や乳幼児は「かぜ」にかかったらその看護には十分気をつけ、早めに治療を受けるようにしましょう。

    重症化しやすい人

治療は

    「一般療法」

      1.室温と湿度

         夏は戸外との温度差を5℃以内にしましょう。冬は室温18〜20℃、湿度60〜70%が理想的です。乾燥はインフルエンザウイルスが好むところで、湿度が30%で最も盛んに増えます。空気が乾燥していると、呼吸器の粘膜が乾燥し抵抗力が弱くなり感染しやすくなるからです。

      2.食事

         発熱すると水分が余計に必要になります。食欲が落ちている時は無理に食事をせず、身体の楽な時に消化の良いものを与え、食欲の落ちた分を水分で補うようにします。食欲があれば食事の制限は必要ありませんが、偏った食事にならないようにして下さい。「かぜ」をひいてもそれに打ち勝つ体力が必要です。

      3.着替え

         熱が下がる時、たくさん汗をかきます。こまめに濡れた下着やパジャマを替え、乾いたタオルで濡れている身体を拭いて清潔にします。

      4.十分な睡眠

         睡眠を十分にとり疲れを明日に持ちこさせないことも大切です。

    「症状と手当て」

      1.熱

         一般に体温が上がる時には寒がり、ガタガタと震え悪寒(おかん)を伴うこともあります。そのような場合は暖かくします。
        熱は生体の防禦反応です。原則として下げる必要はありません。一般的に子供の方が熱に強い傾向にあります。元気がない、ぐったりしているなどの症状がある時は解熱剤を使ってもよいのですが、熱の高さだけで解熱剤を使用しないようにしましょう。
        また、氷枕やアイスノンで冷やして楽にしてあげて下さい。頭を冷やすと気持ちがよいからするのですが、嫌がっている時に無理にする必要はありません。また、乳幼児は冷え過ぎても訴えることが出来ないので、乳幼児に使うなら水枕程度にして下さい。

      2.咳

         咳は気管に入った異物や分泌された痰を出そうとする生体の防禦(ぼうぎょ)反応です。痰のからんだ湿っぽい咳をしている時は、無理に咳を止めることはよくありません。粘調性のある痰をサラサラにして痰をきれやすくする意味で水分を十分与えてやって下さい。コンコンとした乾いた咳は薬で咳を止めてもよいでしょう。また、咳のために目が覚めたり、咳と同時に吐いたりすることがあります。吐いたりする場合は食べ物、飲み物をお腹いっぱいにしないようにします。

      3.鼻水

         鼻の粘膜に炎症があると、鼻水、鼻づまりくしゃみなどの症状が出ます。鼻を強くかむと耳の方へ感染が広がることがあり、つよくかんではいけません。片方ずつ鼻をかむようにします。鼻をかめない乳幼児の場合は直接お母さんの口で吸い出すか、あるいはスポイド等で吸引し、鼻水をとってあげます。1歳位までは鼻がつまって息つぎが上手に出来ず、1回の哺乳量や食事量が少なくなることがありますのでその場合は哺乳回数や食事の回数を増やして下さい。

      4.嘔吐

         「かぜ」の消化器症状の一つとして吐き気を伴う場合があります。また、3歳位から10歳位の小児は「かぜ」が引き金になり、いわゆる自家中毒となり吐き気が加わる場合もあります。吐くことにより水分が失われ脱水になることがありますので気をつけなければなりません。

      5.下痢

         下痢を伴うことがあります。嘔吐と同じく水分が失なわれた状態になりやすいので水分の補充に心がけて下さい。

    「薬物療法」

       「かぜ」の時に使われる薬は、「かぜ」の症状を抑えるためのものと、細菌を殺すためのものがあり、組み合わせて服用します。

      1.解熱鎮痛剤

         小児の場合少なくとも38℃以上(乳児の場合は38.5℃以上)で機嫌が悪い、元気がないなどの症状があれば解熱剤を使ってもよいが、寝ていたり遊んでいる場合は使う必要はありません。親の安心のために解熱剤を使うようなことをしないで下さい。
         解熱剤にはだいたい鎮痛作用もありますので頭痛などの症状を和らげるためにも使います。

      2.鎮咳剤(せき止め)

         咳には痰を伴う咳と、痰を伴わない乾いた咳とがあることは前に述べました。咳の反射を抑える鎮咳剤と気管支を拡げて痰をきれやすくする鎮咳剤があり、それらを使い分けなければなりません。

      3.去痰剤

         痰の粘り気をとったり、水分を補ったり、分解したりしてサラサラにし痰をきれやすくします。

      4.抗ヒスタミン剤

         鼻水、鼻づまり、くしゃみを抑えます。

      5.抗生物質

         細菌の増殖を抑えたり殺したりする作用があります。「かぜ」の原因がウイルスの場合には効果はありませんが、重症化しやすい高齢者、乳幼児、慢性疾患の人などの抵抗力が落ちたところへの細菌の感染(2次感染)を予防するために抗生物質を使うことが多いのです。
         勿論、細菌感染の場合は抗生物質の使用は欠かすことが出来ません。

    「注意すること」

      看護には十分気を配り長引いた時や経過がおかしい時

         どんな病気でも一人一人同じ経過をたどらないように、「かぜ」も同様でそれぞれ経過が違います。中耳炎、肺炎、筋炎、時には髄膜炎、脳炎を合併する人もいます。「かぜ」以外の他の病気が潜んでいる場合や、元々ある持病が悪化する場合もありますので経過が長引いている時や状態が変った時は診察を受けて下さい。
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