結核

金沢市医師会 すこやか 第78号(1998年9月1日)

結核

 結核は昔の病気ではありません。いま高校や大学で、また若い看護婦さんや職員を中心とする院内での集団感染が全国に増えています。
 現在、世界では毎年300万人、日本では3,000人もの人たちが結核のため死亡しています。そしてごのお薬も効かない結核菌の感染も問題となっております。

世界の現況

 1973年(昭和48年)ごろからエイズ、エボラ出血熱、O-157といった新顔の伝染病がわたしたちをおびやかしていますが、これらを新興感染症といいます。
一方、今日忘れられがちになっていた感染症が復活し始めています。再興感染症と言ってこの代表が結核なのです。
 結核は有効な薬が発見されたことにより近い将来には地球上から消滅するだろうと考えられていました。
 ところが予想に反し、毎年300万人が死亡しています。結核死の約70%はアジアに集中し、アフリカ(特にサハラ砂漠から南側)とラテンアメリカがこれに続き25%、残り5%を日本を含め欧米の先進諸国が占めていますし、地球全体から見れば決して減ってはいないのです。

日本の現況

 わが国の結核死亡率(人口10万人当たり)は1918年(昭和7年)の257人を最高に、1950年(昭和25年)まで死亡率の首位を独占していましたが、栄養状態の向上、結核の特効薬の開発、行政の努力などで1993年(平成5年)には2.6人にまで減少しました。
 しかし、その後、1995年(平成7年)には減少傾向が鈍り約4万3000人もの患者が新たに発生し死亡者も3000人を超えています。
 これを各先進国と比較しますと何とも悪い成績です。
 この原因は、未感染者の多い20〜30歳代の若い世代が学校、病院、事業所などでの多数感染すること、また、若いころに感染、治療し、その後健康に過ごしてきた中高年齢者の再発、排菌している重症患者の増加、日本よりはるかに感染率の高い国から来日した外国人の結核罹患率が高いことなどです。
 また、薬の効かない結核菌による感染例も報告されており憂慮すべき状態にあります。

結核とはどんな病気ですか

 たんの中に結核菌の出るようになった人が咳やくしゃみをしますと、飛沫(しぶき)と同時に結核菌が吐き出され空気中に飛散します。これが肺に吸い込まれ定着して感染します。
 結核に感染しても発病する方は10人のうち1人か2人です。健康な人では、からだを外敵から守る免疫の働きによって結核菌の増殖がおさえられているので発病はいたしません。不顕性感染といいます。この結核菌に対し免疫力を作るように考案されたものがBCG接種です。
 一方、発病しやすいのは免疫力の低い乳児や高齢者、栄養状態の悪い人や糖尿病の人、ぜんそく、膠原病などで副腎皮質ホルモン(ステロイド)を投与されている人、胃潰瘍の人などです。

どんな症状で発病するのですか

 初期の症状は「かぜ」によく似ており油断している間に進行し手遅れになります。せき、たん、血たん、発熱、胸痛、痩せる、体がだるいなどの症状が2週間以上も続くようでしたら要注意です。
 結核に感染して治療しないままでいますと、肺門リンパ線炎や胸膜炎をおこします。血液の流れに入ると全身のほとんどの臓器が侵されます。

結核の診断

 結核菌の感染を判断するためには菌の発見が重要であり、これを助けるものとしてツベルクリン反応検査と胸部X線(レントゲン)撮影があります。

1.ツベルクリン反応検査

 結核菌に感染すると体内にはこれと戦うための免疫ができ、同時に結核菌の成分に対しアレルギー反応を示すようになります。菌の成分をうすめて作ったツベルクリン液を注射し、48時間後の反応(赤さと硬さ)で感染の有無を判断します。
 なお、排菌者と接触があって強陽性の場合は発病の危険が高く、精密検査が必要です。

2.胸部X線(レントゲン)検査について

 ほとんどの結核の病巣は肺にあらわれますので、胸部X線撮影が必要です。1936年(昭和11年)に胸部X線間接撮影が考察され、集団検診が可能となりました。これは現在も実施され、肺結核と同時に肺がんの早期発見にも役立てられております。
 さらに詳しく病巣を調べるためにはCT検査を行います。

3.結核菌をみつける

 ツベルクリン反応が強陽性であっても、胸部X線写真にそれらしい陰影(かげ)があっても、結核と断定はできません。
 たんをガラス板に塗って結核菌を染色して顕微鏡で調べます(塗沫検査)が、これで見つからない時は菌を培養します(培養検査)。この検査には3週間以上の時間がかかります。それで最近は結核の診断を確定し、早期に治療を行うために遺伝子増幅法を用いた検査を行います。

BCGの接種はなぜ必要ですか

 わが国では1925年(大正14年)から結核予防のためにこの接種をはじめました。BCG接種をしておけば発病率は低くなります。とくに乳幼児では結核性髄膜炎や重症の結核になるおそれがありますがBCG接種をしておけば防ぐことができます。
 BCG接種は従来の義務接種から勧奨接種に切り替えられました。勧奨接種とは国が有効性を認め接種を勧めその経費を公費で負担するけれども強制ではなく国民が自らすすんで受けるものです。
 受けたい人だけすればよいという任意接種とは異なっています。勘違いしないよう注意してください。
 現在、皮内接種法(スタンプ式)でBCG接種が行われます。その中にはリンパ腺が腫れたりする人もあるようですが、自然治癒いたします。

予防内服について

 感染後まもない人や発病の危険の高い人などに抗結核薬を服用してもらい発病を予防します。29歳を上限にして適用し、高校生以上で集団感染が疑われる場合などを原則といたします。
 内服しないグループとの比較で60%前後予防効果が証明されています。

結核の治療について

 結核は昔大気・安静・栄養以外に治療の手だてがなく、長い療養生活が強いられました。しかし現在は結核菌によく効く薬ができて、これを正しく服用すれば短期間でよくなります。
 菌を排出しているときは入院が必要ですが、排菌が止まれば通院治療が可能になります。
 しかし初期治療が完全に実施されないとどんな薬も効かない耐性結核菌を作ってしまいます。これを防ぐために直接管理下短期化学療法が考えられました。この療法は長時間の治療を途中で中断しがちな患者さんに対し、医療関係者が直接出向き目の前で薬を確実に服ませることです。WHO(世界保健機構)はこれにより治癒率が90%以上になったと報告しています。
 なお、我が国では患者さんが安心して適正な医療を受けられることを目的に結核医療費公費負担制度があります。外国人にも適用されております。

おわりに

 日本は西暦2000年までに結核患者を1990年の半分、人口10万人あたりの罹患率を20以下、そして早期の「結核根絶」という具体的な目標を掲げています。
 ちなみに平成8年度の結核罹患率でもっとも低いのは長野県16.8です。1番高いのは大阪府65.3、石川県は26.3の中位です。
 日常生活における感染の予防に次のことが大切です。

1.早期発見と、早期の確実な治療

2.塗沫陽性患者さんや、関連する人たちのマスクの着用

結核をなくしましょう
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