糖尿病対策はチームワークの総力戦で
メタボリックシンドローム(症候群)でさまざまな大血管障害を惹起するリスクが高いことから、国は特定健診を導入して健診(検診)対策の主軸にすえ、その克服に積極的に介入を開始しています。同症候群を構成する病態の主要な位置に糖尿病が存在しています。もともと糖尿病には古典的な三徴と呼ばれる網膜症、腎症、神経障害に加えて壊疽を含めたいわゆる四徴がこの病気に必然的に随伴する合併症として知られていましたが、これらは共通して細小血管の障害を基盤に発症します。心筋梗塞・狭心症や脳卒中など直ちに生命を脅かす大血管障害についても、糖尿病はその発症リスクの高さが指摘されてきました。また、糖尿病では免疫力の低下をもたらし、歯周病などの感染症や悪性腫瘍(がん)の併発率が高いという成績も積まれています。
2005(平成17)年、国の後押しで日本糖尿病対策推進会議が発足し、各都道府県ごとにその運動機能母体が誕生しました。日本医師会を軸に日本糖尿病学会、日本糖尿病協会などがしっかりスクラムを組んで厄介者の糖尿病をなんとか封じ込めたいという願いで総力部隊を編成したわけです。血管障害など合併症が随伴すると患者さん本人の心身の苦痛は無論、家族、職場、地域などに計り知れない負担を強いることになります。医療費も膨れ上がり、財政面での社会損失は甚大となります。適切な糖尿病対策を構築することにより、健康土壌の復活を国ぐるみで達成したいという祈りが込められています。
チーム医療の重要性が多くの病態で強調されますが、糖尿病はその典型モデルとして成果が期待される代表です。医師、歯科医師、看護師、保健師をはじめ管理栄養士、薬剤師、理学療法士(運動指導士)、検査技師、臨床心理士などの各医療専門職種のスタッフが患者さんの管理、指導に一体となって関わることにより適切な療養環境が保持され、合併症の抑止や生活価値観の向上が現実となります。このシナリオが医療機関個々の内部連携、特定の病診、病病連携にとどまらず、行政の医療対策部門や福祉健康センター(保健所)と密接に連動することによりまさに地域ぐるみの進化した均質の抗糖尿病ネットワークが張りめぐらされることになります。
2000(平成12)年に発足した日本糖尿病療養指導士(CDEJ)の認定制度はこのチーム医療の推進に不可欠な存在となりました。日本糖尿病学会認定の糖尿病専門医とともに糖尿病に造詣の深いあらゆる医療専門職種のメンバーが力を結集して糖尿病の予防から治療に至るまで全力投球ができるようになりました。さらに、これらの指導要員の確保をより柔軟に拡大することを目的に、日本糖尿病協会が認定する登録医、歯科医師登録医や地域で認定する糖尿病療養指導士(LCDE)の制度が具体的に発進しています。ただ、率直に申し上げてこれらの医療スタッフの配置に地域較差がある現状を認めざるを得ません。
2013(平成25)年、向こう5年間の石川県の第6次糖尿病医療計画の中で、糖尿病のかかりつけ医(安定期治療医)と専門医療機関、合併症対応医療機関のそれぞれについてリストを作成し、県内を9つの区域に分けて区域ごとの医療連携をきめ細かく前進させる方策が打ち出されました。かかりつけ医と専門医療機関、合併症対応医療機関との間で患者さんの紹介・連携基準のマニュアルが定められ、各区域ごとに地域連携協議会を立ち上げて患者さんを地域ぐるみで支える体制づくりが整備されつつあります。医療スタッフの手薄な地域では栄養ケアステーションなどの効果的な運用を検討しています。医師同士、とくにかかりつけ医と歯科医師、眼科医との密接な連携は合併症抑止の観点から不可欠となります。
石川県糖尿病対策推進会議では、常に新しい情報入手と活用に努め、患者さんのよりよい診療環境の確保へ向け全力投球をしてまいります。インクレチン関連薬の開発やインスリン治療の革新が糖尿病管理面で多大な貢献につながっています。このほど熊本宣言が打ち出され、グリコヘモグロビン(HbA1c)の目標値が合併症抑止の面から7%という基準が提示されました。糖尿病の合併症予防の成果はまさに健康対策のモデルとして注目されています。そして、忘れてならないのはわが国が直面している超高齢社会です。熊本宣言でも薬物治療下の高齢患者さんのHbA1c目標値は8%として慎重な対応を求めています。患者さんで認知症を併発されている方、介護施設に入所の方や在宅治療に身を委ねている方には一層きめ細かい配慮が必要になってまいります。
県民の皆様方とご一緒に糖尿病克服の道をしっかり歩んでまいりましょう。言うまでもなく糖尿病は早期発見、早期治療が最も大切です。何卒ご理解、ご協力とともに絶大なご支援をよろしくお願い申し上げます。
氏名 | 所属 |
西村 泰行 | 石川県医師会 |
長尾 信 | 石川県医師会 |
古川 健治 | 石川県医師会 |
島 隆雄 | 石川県医師会 |
早戸 武志 | 石川県糖尿病協会 |
稲垣 美智子 | 石川県糖尿病協会 |
篁 俊成 | 金沢大学附属病院 |
多田 隼人 | 金沢大学附属病院 |
清水 美保 | 金沢大学保健管理センター |
櫻井 勝 | 金沢医科大学病院 |
熊代 尚記 | 金沢医科大学病院 |
浅野 昭道 | 石川県立中央病院 |
小泉 順二 | 珠洲市総合病院 |
宮本 正治 | 恵寿総合病院 |
竹田 康男 | 金沢市医師会 |
永井 幸広 | 金沢市医師会 |
中島 基宏 | 石川県眼科医会 |
江尻 重文 | 石川県歯科医師会 |
前大道 綾子 | 石川県看護協会 |
森戸 敏志 | 石川県薬剤師会 |
大谷 千晴 | 石川県栄養士会 |
片田 圭一 | 石川県理学療法士会 |
茅山 加奈江 | 石川県保険者協議会 |
木村 慎吾 | 石川県健康福祉部健康推進課 |