平成30年スギ花粉情報

 石川県の今年のスギ花粉飛散はほぼ例年並みかやや多く、飛散開始は2月20日頃が予想されます。
 シーズン中に1,000個/cm以上のスギ花粉が飛散すると、ほとんどの患者さんは症状がでます。そこで、スギ花粉の飛散について説明します。

 敵(花粉)に勝つには敵(花粉)の動きを充分に知ることです。何事も早めの対応が肝心です。花粉症になる人は年々増えていますので、すでに花粉症の人も、まだなっていない人もアンテナを伸ばしてご注意ください。今年の大量飛散に備えて、毎年症状が出る方は事前の対策が必要であり、これまで出なかった方もある日突然に発症することがあり、注意が必要です。

1.スギ花粉の特徴

 スギ花粉は、スギの雄花から出る花粉で、直径はおよそ30ミクロンです。1mmの30分の1ですから、花粉そのものを肉眼で見ることはできません。顕微鏡で観察しますと、まん丸の一部が出べそのように飛び出しおり、その部分をパピラといいます。例年、2月下旬から3月終わり頃、長い年では4月中頃までまとまって飛散します。前年の10月から12月にかけて季節はずれの飛散もあり、その飛散数からシーズン中の飛散数も予測できるようになりました。

2.スギ花粉の測定法

 観測方法はいくつかありますが、多くの施設で行われてきた方法は、ダーラム法と呼ばれ、屋外に設置された写真のような円盤の間にグリセリンを塗ったガラスのプレパラートを置き、風に舞って飛んできた花粉を顕微鏡で観察します。飛んでくるものはスギ花粉だけではなく、季節によってはマツ、ハンノキ、ヒノキ、イネ科花粉が観測されたり、黄砂がたくさんついていることもありますが、スギ花粉は、その特徴的な形と大きさから、比較的簡単にわかります。石川県内では、加賀市から能都町まで12箇所で測定されています。

3.スギ花粉数とは?

 プレパラートは、毎日午前9時に交換して花粉数の測定を行っています。花粉数はプレパラート上の1cmあたりにいくつあるか顕微鏡を覗いて数えます。数個であれば観察は容易ですが、数十個さらには100個を超えると大変です。したがって、スギ花粉数は24時間あたりの1cmに落下した花粉数ということになります。毎日測定して、2月から4月までのシーズンに飛散した合計がその年の飛散数となります。
 それでは、花粉の多い、少ないとはどのような基準で判断されるのでしょうか。
 スギ花粉の多い、少ないは下の表の通り、1日あたりの花粉数で決まります。
 30ミクロンの花粉がたったの50個で「非常に多い」と表現されると意外に思われるかもしれませんが、これは1cmあたりの数です。これを1mあたりに換算するとその1万倍です。1個/cmとは1万個になり、花粉症の方にとってはこれを聞いただけでくしゃみが出てきそうな数字です。
24時間ごとの飛散数(1cmあたり)
0個 なし
1個〜9個 少ない
10個〜29個 やや多い
30個〜49個 多い
50個〜 非常に多い

4.シーズン飛散総数とは?

 2月から4月までの飛散期の24時間ごとの飛散数を合計したものが、そのシーズンの総飛散数となります。シーズン総飛散数は、年によりまったく異なります。花粉症にかかっていても、一昨年と昨年で症状の出かたがまったく違っていたと思います。平成10年から平成28年までの19年間で、最も飛散の多かった平成25年は10,000個以上の飛散が記録されたのに対して、最も少ない平成10年は400個以下と25倍以上の開きがあります。年毎のバラツキも大きく、まとまった数はありません。さらに過去20年は1年ごとに増減をくり返しながら右肩上がりに花粉数の増加があり、過去10年間で約2.5倍に増えています。平年という表現は適切ではなく、過去何年間の平均とするのが適切かもしれません。  花粉予測は、スギ・ヒノキ科の花粉を合わせた予測です。
 石川県ではヒノキ林の面積は、スギの10分の1以下ですが、雄花をつけるまでに成長したヒノキが多くなってきており、スギ花粉症の人はヒノキ花粉にも反応することが多いため、4月のヒノキ花粉飛散にも十分注意が必要です。

5.地域による違いはありますか?

 スギ花粉数はスギの木の多い少ないにも影響を受けますので、石川県内どこでも同じということはありません。県内では能登地区や加賀南部あるいは山間部に飛散が多く、金沢市内の2倍以上の飛散があります。

6.今年の飛散は多いの?少ないの?

 皆さんが最も知りたいのは、今年の飛散が多いのか少ないのかということかと思います。  スギ・ヒノキ花粉飛散量は前年夏の日照時間、気温、降水量による影響を大きく受けます。気温が高く、日照時間が長いと花粉が多く飛ぶ要因となる一方で、降水量が多いと花粉が少なくなる傾向があります。2017年の夏は、6月は太平洋高気圧の北への張り出しが弱く、梅雨前線が日本の南海上に停滞することが多く、降水量が平年より少なく、日照時間は多く、気温はやや低くなりました。逆に7月は太平洋高気圧の北への張り出しが強まり、梅雨前線が日本海に停滞することが多くなったため、降水量はかなり多く、日照時間は多く、気温も高くなりました。梅雨明けは8月2日頃と平年より9日遅くなり、8月は台風や湿った気温の影響で、降水量が多くなりました。
 2017年の夏は前述のとおり降水量は平年よりかなり多く、気温はほぼ平年並み、日照時間は平年比で多くなりました。また、2017年春の飛散は一昨年より少なく、例年より少なくなりました。2018年は以上の傾向と石川県林業試験場発表の花芽の着花状況を考慮して、花粉数は例年並み、昨シーズンよりやや多いとしました。
 例年の飛散数からみますと、最も少ない金沢で2,000〜3,000個、小松で4,000〜5,000個、加賀で9,000〜10,000個、能登で10,000〜20,000個という数値を予想しています。
 一般的に、シーズン総飛散数が1,000個を超えると、全ての患者さんに症状が出るといわれていますので、今年も昨年同様に注意が必要ということになります。


7.飛散はいつから?

 スギの生理として、雄花の花芽は夏にでき、秋は休眠します。その後、石川県では12月〜1月の間に休眠打破がおこり、スギ雄花は気温に従って成長を続け、有効積算気温が一定値を超えると開花します。
 従って、飛散開始は休眠打破後の積算気温(毎日の最高気温の累積値)と深い関係にあり、暖冬では早まり、厳冬では遅くなりますので、北陸地方では正確な予想は困難ですが、ほとんど2月下旬から3月上旬という範囲内にあります。しかし、近年の温暖化の影響により、飛散開始日は年々早くなってきています。2018年は2月20日頃に飛散すると予測されます。この時期の天候にご注意ください。

8.花粉飛散はどのような日に多いの?

 天気図でみると、日本海に低気圧が入ってきて、南風が吹くいわゆる春一番・春二番の強風の日に大量に花粉が飛散します。
 総花粉飛散数の多い年は、100個以上の非常に多い日がそれだけ多くなります。強い南風にご注意下さい。

9.飛散の状況はどうすればわかるの?

 飛散シーズンが近づきますと、新聞、テレビなどのマスコミを通じて毎日の飛散予想が出されます。ここで注意が必要なのは、どのような報道にもいえますが、その正確性です。花粉飛散について言えば、測定法は決まっていますので、情報源が地元に近ければ近いほど正確な情報が得られるということです。また、本ホームページの花粉情報では、県内12の定点(加賀市、小松市、白山市(旧 鶴来町、旧 松任市)、金沢市、内灘町、七尾市、能登町)でのその日の朝9時までの24時間の飛散数とともにその日の飛散予想を発信しておりますので、是非ご利用ください。また、石川県林業試験場のホームページでも情報が得られます。
 さらにもっとリアルタイムの飛散状況が知りたいという方には、環境省ホームページから、1時間ごとの花粉数計測結果が出ています(愛称:はなこさん)。金沢大学屋上と白山市(旧 鶴来町)の石川県林業試験場に設置されたリアルタイムモニターにより計測された観測値ですので、お出かけの前に見られるのも良いかもしれません。ただし、このリアルタイムモニターは雪みぞれも花粉として数えてしまうので、注意が必要ですが、雪、みぞれが降っているときには、スギ花粉が飛ぶことはほとんどありませんので心配は無用です。石川県医師会での花粉飛散情報は2月1日から開始します。
 その他、リアルタイム花粉情報をウェザーニュース社の花粉ch.でみることもできます。石川県で7か所 自動測定器(ポールンロボ)を設置し、花粉情報を提供しています。

10.スギ花粉症の治療

 マスクなどでスギ花粉に暴露しないことが一番ですが、平成26年10月から治癒の可能性がある舌下免疫療法が保険診療でできるようになりました。すべての医労機関でできる訳ではなく、さらに花粉飛散期には治療開始できないので詳細は医療機関に相談してください。

11.スギ花粉症と舌下免疫療法

 新しい花粉症の治療薬が出たと聞いたけど

 毎年春先になると、くしゃみ、鼻水で憂鬱なる方も多いでしょう。わが国の人口の実に30パーセント近くが、スギ花粉症と言われています。これまで、スギ花粉症の治療では、抗ヒスタミン剤などによる、対症療法やレーザー手術のような、アレルギーを起こす鼻粘膜に対する治療が中心でしたが、平成26年10月から舌下免疫療法が加わりました。この治療法で使われるのが、「シダトレン」というお薬です。シダーというのは、英語でスギのことで、スギ花粉のエキスから作られた薬です。毒によって毒を制すというか、スギ花粉のエキスを口の中の舌の裏側のところに入れ、体の免疫系を慣らすことによって、スギ花粉症の発症を抑える作用があります。実は、従来からスギ花粉のエキスを皮下注射して慣らす治療法は行われていましたが、2年近く注射のために通院しなくてはいけなく、その利益にあずかれるのは、毎年2月から3月のせいぜい2か月だけという割の合わないものでありました。そのため、だんだんと実施されなくなっていたのです。シダトレンの場合は、注射ではなく内服ですから、自宅で使用可能です。そこで、今回は舌下免疫療法を取り上げます。

実際の方法と流れ

  1. 現在は、スギ花粉症にしか効果がないので、スギ花粉症であることを確定していることが重要です。従って、問診、血液検査、皮膚スクラッチテストなどで、スギ花粉症を確認します。重症な喘息や、免疫異常がある方は、駄目とされています。また、12歳以上でないといけません。これらの条件が満たされるなら、舌下免疫療法が受けられる可能性がありますが、この治療ができるのは、主に耳鼻咽喉科やアレルギー科などで、指定された講習を受け、試験にパスした医師のみとなっていますので、かかりつけの医師が資格を持っていないなら、紹介してもらうのがよいでしょう。
  2. スギ花粉症と確定したなら、治療期間、効果、副作用、治療スケジュールなどの説明を担当医から受け、治療開始を決定します。2〜3年は継続が必要ですから、根気よく続けられる人でないと難しいと考えられます。また、スギ花粉飛散期間中に開始することは出来ず、開始は夏から秋となります。
  3. 最初の内服は副作用が出た場合を考え、医療機関内で行い、30分間様子を見ることになっています。もし、喘息発作やアナフィラキシーショックといった重大な副作用が起こった場合に、対応するためです。2回目以後は、自宅で内服することが可能になります。一般的には、スギ花粉エキスの量は、2週間かけて慣らしながら増量し、その後は、同じ量を投与する維持期に入ります。

注意すべき点について
    この治療は、すぐに効果は出ず、最低でも1年はしないと効くか効かないかがわかりません。また、7割の方には効果がありますが、無効の方が3割あり、やってみないと効果について、わからないとされています。重大な副作用も少ないと思われますが、口の中がかゆくなる等の軽い副反応は、珍しくないようです。さらに、スギ花粉飛散期間は、体の反応が過敏なため、舌下免疫療法は開始できません。したがって、せっかちな方には、難しいとも言えます。とはいえ、スギ花粉症を根本から改善する治療法です。関心のある方は、耳鼻咽喉科やアレルギー科でご相談されるのも良いでしょう。
写真1 
舌下免疫療法で使用される薬「シダトレン」
左端(1週間目)右端(2週目)中央(3週目以降)と3種類の薬がある。
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